2016年に改めて読む 1968年の栃木「尊属殺重罰事件」 初めての違憲判決  昭和45(あ)1310

標題の件、JDが心を込めて、申し上げます。

日経BPで大変読み応えがある記事が上がっていました。はてなブックマークでも、ブックマーク500越えの評判です。改憲の動きに警鐘を鳴らし、改めて憲法を振りかえることを薦めています。

なぜ今、この事件なのか

法律を扱う人にとっては、有名中の有名なこの事件だと思います。

日本国憲法がこれまで70年間、この国の屋台骨として国民生活を営々と守り続けてきたのも事実である。この連載では戦後70年、日本国憲法が果たしてきた役割、その価値を改めて考えたい。

 >> 「父殺しの女性」を救った日本初の法令違憲判決:日経ビジネスオンライン http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/120100058/120200001/?P=1

 

最近の政治の動きは、改憲するという、本来は何かの手段であるはずのことが、目的化しているように見えます。聞こえてきている論点は、改憲の必要がないか、むしろ危険を招くもので、法律をかじったものとしては、強く強く、不安を感じています。

そんなこと言い出す政権も政権だし、ロクにお勉強もしてないのに追従する国民の皆さまが相当コワイです。

 

この事件について

違憲判決を出した判例として、初学者にも知られるぐらいのものだと思います。

事件の概要

実子と関係を持つというおぞましい年月を重ねた父親が、まさにその実子から絞殺された事件。それでも尊属殺重罰規定(後記。改正により削除済。)が適用されるのか。そもそも尊属殺重罰規定に合理性はあるのか、違憲ではないのか。

>> 裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51807

 

憲法14条 対 刑法200条

憲法第14条第1項

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

刑法第200条

削除

旧規定は

自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス

 

判決中気になった個所

>> 051807_hanrei.pdf http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/807/051807_hanrei.pdf

(刑法200条の)設置の思想的背景には、中国古法制に渕源しわが国の律令制度や徳川幕府の法制にも見られる尊属殺重罰の思想が存在すると解されるほか、特に同条が配偶者の尊属に対する罪をも包含している点は、日本国憲法により廃止された「家」の制度と深い関連を有していたものと認められるのである。

さて、右のとおり、普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、しかしながら、刑罰加重の程度いかんによつては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。すなわち、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法一四条一項
に違反して無効であるとしなければならない。

刑法二〇〇条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみ
に限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法一九九条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。

田中二郎裁判官の意見:

私は、普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設け、尊属殺人なるがゆえに差別的取扱いを認めること自体が、法の下の平等を定めた憲法一四条一項に違反するものと解すべきであると考える。

一種の身分制道徳の見地に立つものというべきであり、前叙の旧家族制度的倫理観に立脚するものであつて、個人の尊厳と人格価値の平等を基本的な立脚点とする民主主義の理念と抵触するものとの疑いが極めて濃厚であるといわなければならない。

私も、直系尊属と卑属とが自然的情愛と親密の情によつて結ばれ、子が親を尊敬し尊重することが、子として当然守るべき基本的道徳であることを決して否定するものではなく、このような人情の自然に基づく心情の発露としての自然的・人間的情愛(それは、多数意見のいうような「受けた恩義」に対する「報償」といつたものではない。)が親子を結ぶ絆としていよいよ強められることを強く期待するものであるが、それは、まさしく、個人の尊厳と人格価値の平等の原理の上に立つて、個人の自覚に基づき自発的に遵守されるべき道徳であつて、決して、法律をもつて
強制されたり、特に厳しい刑罰を科することによつて遵守させようとしたりすべきものではない。尊属殺人の規定が存するがゆえに「孝」の徳行が守られ、この規定が存しないがゆえに「孝」の徳行がすたれるというような考え方は、とうてい、納得することができない。

 

事件の感想

最高裁も日和った見解でした。

多数意見は、構成要件のところでは(つまり尊属殺を重罰にすることは)「合理的な根拠を欠くものといえず」としていてたとか…がしかし、加重の程度問題の所で、違憲だ、と。違憲判決出すのは怖かったんでしょうね(岡原昌男裁判官:「裁判所は前記のような憲法適合性についての立法府の判断を尊重することが三権分立制度の下における違憲立法審査権行使のあり方として望ましいということができよう。」)。 …程度問題に逃げ込んで、200条を正面から違憲と判断するには至っていません。だらしない。

個人的に田中裁判官の意見に全面的に賛成です。特別の関係にある相手を殺害することは大変な悪行として非難されるべきこととは思うけれども、日本の刑事システムに取り込むことは、制度的に不整合です。

つまり、日本の刑事システムは、応報刑論(目には目を…)・目的刑論(犯罪予防)に立脚するものであるけれども、尊属殺だけ加重するのでは応報刑論的に意味が分からないし(それが応報なら普通殺人と同じで充分)、目的刑論として、殺人の場面にあって、「やっべ、親殺すと余計に罪が重いからやめておこう!」みたいな心理もちょっと観念しにくい…それでなくても大変な不道徳であるところの親への反抗を、殺人は重罪という199条で対応可能なのであり。

そもそも、親に対する「自然的情愛」というものは、「自然的に」湧き出てくる環境、経緯と、その結果であるところの「情愛」の一連を一式としてこそ、賛美の対象になるものであって、周りから、「反したのでペナルティな!」…で強制するべきものでは最初からない、のではないでしょうか。外野が強制する尊敬、外野が強制する愛情、ってそれ尊敬でも愛情でもない。応報刑論、目的刑論の世界で統治すべきものではないです。無理強いしたポーズは、真相=感情が膨れていつか爆発します。だから、むしろ件数としては親族間の殺人は多いのではなかったでしたっけ。目的刑論的には、むしろ逆効果を生んできた可能性さえ、あると思います。

大貫弁護士親子

加害者(虐待を受け続けた子)の弁護をしたのは、大貫弁護士親子でした。血のつながった親子ではないのだそうです。

実は正一氏は大八氏の実子ではない。(略)子どものころから苦労した人生だった。弁護士になり、勤めた先の大貫大八弁護士に子どもがおらず、見初められて養子になった。

>> 「父殺しの女性」を救った日本初の法令違憲判決 (5ページ目):日経ビジネスオンライン http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/120100058/120200001/?P=5

私は、親子や家族のありかたは、血縁ではなく、家族でありたいと思う当事者の気持ちにこそよるべきだと思っています。

大貫弁護士親子に関するポスト >> 大貫弁護士と尊属殺|弁護士作花知志のブログ http://ameblo.jp/spacelaw/entry-10907208061.html

そもそもこの事件の核心は

究極の毒親問題でした。

殺された父親は、娘(加害者)が14歳の頃から強姦を含めた虐待を繰り返し、子どもを五人出産させるという結果に至っています。その娘が幸いにも結婚相手となる人と巡りあったとき、罵詈雑言浴びせて、結婚を反対しています。我欲しかない。程度問題的に強烈なので余計に際立ちますが、相手の人格を認めない、という毒親問題に通底する原因が横たわっています。相手の人格を認めないから強姦もできようし、相手の人格を認めないからこれまでの関係を既得権化して結婚に反対できるわけです。

それでも親子と言いますかね。

親子というのは、DNAだけの問題ですか。それとも戸籍上の問題ですか。何事もそうですが、カタチだけを捉えて物を言うのは、横着です。加害・被害の関係になることが非難されるべきなのは言うまでもないですが、傍から見ている方にも、なんの思慮もなく「親子だから」の脊髄反射を投げ付けるのは、止めて頂きたい。イジメと同じで、傍観者も罪深いです。

 

私にとって、もし、法律資格試験に合格出来たら、いやできなくても、「家族の悩み」との闘いが、一生のテーマになるだろうと思います。判例研究はライフワーク的にやっていきたいと思っています。

 

以上、JDでした。

 

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投稿者: JD / ジェイド /

ジェイドと呼んで下さい。 ワラジ履きまくってます。 家族最優先。 得られなかったぴかぴかメダルを獲得するための戦いの最中。起業・サラリーマン経験あり。 文字を書くこと、文字を読むこと、どちらも中毒的に大好き。 (2016/3/10更新)