認知症男性JR事故 世間の反応と判決、関連法 司法書士試験受験生がまとめた今回の事件

前回書いたこの事件についての所感はあまりに法律の話が少ないように思ったので、改めて記事を割きました。もっとも、まだ受かる見込みも定かでない、一司法書士試験受験生の書くことですので、笑ってご覧ください。

 

判決全文

公式サイトリンク >> 裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85714

自作「ラク読みファイル」 PDF

※ 判決文に読みなれていない人にも読みやすいように、公式サイト掲載の全文テキストデータを、脚注に記載の方針に沿って編集したものを作成し、掲示しています。

 

なぜこの事件が注目されるか

65歳以上人口の割合は、世界でも最も高い水準です( >> 統計局ホームページ/I 進行する少子・高齢化)。

そして、認知症は、記憶障害や、妄想、幻覚、徘徊を伴うもので、旧称は痴呆症と言われていました。認知症は把握されているだけで85歳以上の4人に1人と言われます( >> 認知症の人はどれくらいいるの? | 理解する | 認知症 | メンタルナビ)。

近い将来、いやこうして判例ができたように、既に今現在も認知症を取り巻く課題は顕在化しています。これからも増していくのが必然です。世界的にも例のない割合に達する高齢化を前に、「もしそうなったらどうなるか」は、誰しも危機感をもって注目する段階にきています。

 

事件の概要

2007年12月7日午前5時45分頃、愛知県のJR東海道線某駅で、認知症に罹患した男性が、線路上に立ち入り、快速列車にはねられ死亡しました。当初は自殺とみられていたようです。

影響は、JR東海上下34本が運休、20本が最大2時間遅延で、2万人以上に及びました。

JR東海は亡くなった認知症の男性の家族を相手取り、振り替え輸送費など約720万円を求めて提訴。2013年10月頃第一審はJR東海の主張を認め、2014年4月24日第二審では減額されて359万円の支払命令、しかし2016年3月1日最高裁判決では家族の賠償責任を否定したものです。

裁判要旨

 線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻と長男の民法714条1項に基づく損害賠償責任が否定された事例

(既出リンク)>> 裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85714

マスコミの反応

NHK

高齢化が進む中、認知症の人が起こした事故の責任を家族がどこまで負うべきなのか、最高裁の判断が注目

 

妻や実の息子だからと言って、それだけで無条件で監督する義務を負うものではないと指摘しています。

>> 認知症事故 家族の賠償認めず – NHK 首都圏 NEWS WEB http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20160301/5570181.html

朝日新聞

「家族の絆を守る特命委員会」は3日、認知症の人による損害を補償する仕組みを検討していく方針を決めた。

対象は在宅で介護されている人による損害に絞り、家族らに賠償責任がないと判断された場合の被害者側や、賠償を求められた家族の双方に補償する仕組みを考えていく

>> 認知症が原因の損害、補償枠組みを検討 自民党・特命委:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASJ342S07J34UBQU003.html

事件の特集

>> 認知症徘徊の列車事故訴訟 – 介護とわたしたち – 社会:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/national/eldercare/ninchishou_lawsuit/

ポイント

流れ

  • 原審(第二審・名古屋高裁)は、本人妻に対する損害賠償請求を一部認容し、本人長男に対する請求を棄却していた。
  • 今回、本人妻に対する請求も棄却、本人長男に対する請求も棄却を維持。

民法714条1項の「法定の監督義務者」に当たるかどうか

  • 民法714条1項の「法定の監督義務者」に該当するかどうか。
    1. 平成19年当時、保護者(改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律22条1項)や後見人(改正前の民法858条1項)であることだけでは、直ちに「法定の監督義務者」に該当するとはいえない。
    2. 同居する配偶者だからといって、「法定の監督義務者」に該当するとはいえない。
    3. 以上、1.及び2.から、本人妻も本人長男も「法定の監督義務者」に当たるとはいえない。
  • もっとも、「法定の監督義務者」に準ずる立場(準監督義務者)なら、民法714条の損害賠償責任を問うことができる。
  • 準監督義務者」かどうかの判断基準:
    • その人自身の生活状況や心身の状況とともに、
        1. 監督対象との親族関係の有無・濃淡
        2. 同居の有無その他の日常的な接触の程度
        3. 監督対象の財産管理への関与の状況などその人と監督対象との関わりの実情
        4. 監督対象の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
        5. これらに対応して行われている看護や介護の実態

      など諸般の事情を総合考慮して、

    • その人が監督対象を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか
  • 本件についてみるに:本人妻も、本人長男も準監督義務者とはいえない。本人妻は要介護1の認定を受けており、本人を監督することが現実的に可能な状況だだったということはできず、監督義務を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。本人長男も、話合いに加わったり、その妻が本人宅の近隣に住んで介護を補助していたものの、本人長男自身は遠隔地に住み20年以上同居しておらず、監督することが現実的に可能な状況だだったということはできず、監督義務を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえない。
  • 各裁判官の意見(岡部裁判官と大谷裁判官は本人長男が準監督義務者に該当するが義務は怠らず免責という意見)
    1. 木内裁判官;「「家長の責任」がわが国の法制における監督義務者の損害賠償責任の淵源ということはできない」「昭和22年改正民法を経て,成年後見制度を親族に基盤を置く制度とは異なるものとした」「(認知症の人の)日常行動を監視し,他害防止のために監督するという事実行為は成年後見人の事務ではなく,成年後見人であることをもって,民法714条の監督義務者として法定されたということはできない。」「(介護)施設の負うべき義務は民法714条1項の法定監督義務に該当すると解する余地がある。」「介護の引受けと監督の引受けは区別される」
    2. 岡部裁判官;
      • 「(本人長男は、長男妻が単身移り住んで介護をすることを決めたことについて)長男の嫁であるから当然のことであると考えていた」
      • 「(本人長男)は【認知症本人】の介護の節目節目で介護方針の決定に関与していた」
      • (大意)本人妻と長男妻の二人体制の介護形態を行うにことついて本人長男の意向が大きな影響を与えたことを裏付ける経緯があり、本人長男はこうした体制を取ることで介護を引き受けたということができる。それだけなら第三者に対する加害を防止することまでを引き受けたとはいえないが、徘徊防止措置を了承したり、現実に行うなどして、「監督義務を引き受けたということができる。」
      • 「週6回のデイサービスの利用は,一般通常人としての徘徊防止措置としては相当効果のある対策を立てているといえよう。」「(本人妻と長男妻)による体制が機能している上記の状況の下では,センサー等が機能するように設備を整えることを要求することは,一般通常人を基準とすると過大な要求」「徘徊行為を防止するための義務を怠りなく履行していたということができる」
    3. 大谷裁判官;
      • 「身上監護の事務を行う成年後見人が選任されていれば,基本的にはこの成年後見人が,法的な事務との性格を有する介護体制の構築等をして適切な身上監護事務等を行う者として,法定の監督義務者に当たると考えられる。」
      • 「(本件では成年後見人に選任された者はいないが)成年後見人に選任されてしかるべき立場にある者,その職務内容である適切な介護体制を構築等すべき立場にある者」が、「法定の監督義務者に「準ずべき者」として,責任主体として挙げられることになる」
      • 本件では、本人長男が介護体制の「構築等について中心的な立場にあったと認めることができ」、「(同居してないことも含め)責任主体性を否定する事情はうかがわれない」ので、本人長男は準監督義務者に該当する。
      • 本人長男らが行ってきた介護、監督の体制は、本人の「意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮した人的,物的に必要にして十分な介護体制と評価でき」、注意義務、監督義務を怠っていなかったので、「免責されてしかるべき」。

私の意見と感想

法クラ的には専門職後見人としての興味もあろうかと

成年後見制度では、親族のほか、法律専門家が後見人に就任するケースがしばしばあるという話は、不勉強な私も聞き及んでいたのだけれども。つまりたとえば、司法書士が務めるケース。あと弁護士さんとか。

本件が法クラの間でザワザワとして迎えられたのは、他人事ではない状況もあるものと思われ。

ちなみに、見間違えか、後見人は関係ないよね(ホッ みたいな呟きも見た気がするけれども、個人的にはまだ含みを持った判断のように見受けました。

「棄却判決だ安心安心」という感じではない

特に大谷裁判官の意見では、「身上監護の事務(=「生活,療養看護に関する事務」…介護などの事実行為ではなく…)を行う成年後見人は「法定の監督義務者」(714条の)として想定し得るとしたうえで、今回は成年後見人は選任されてないし、本人長男が選任されておかしくない者(=準監督義務者)だと意識しつつも、義務は果たしたので免責、と意見しています。つまり、専門職後見人でも、介護体制を采配したりしていれば俎上にのぼるケースがないとも言えないんじゃないでしょうか。

さておき、世俗目線で見ても、裁判官5人中2人が、本人長男は準監督義務者に当たると考えつつ免責、としている点は大変気になりました。手を尽くしていたので免責となったけれども、立場的には、たとえ20年以上別居していても、采配したのなら責任を取ることになり得る、と。

司法は司法でありそれ以上でもそれ以下でもないということ

そもそも民事訴訟全体が、悪人不在のサイバンであることがままあるというのは私程度でも知るところだけれども、それにしても本件は、登場人物全員がお気の毒な事態という感想でした。

亡くなったご本人は言うまでもなく、提訴したJR東海とて、振り替え輸送費を負担することとなり、どこからも補填されないわけなので。今回、大企業だから良かった…と言うことはできませんが、これがもし、零細企業だったら、個人しかもやはり高齢の方や、幼児だったりしたら。報道の中で見た、判決に対するJR東海の反応も印象的でした(理性的であり人情も感じられる反応でした)。

司法は、法律上の判断を示す場であって、そもそもこうした事態を防ぐのは、「事実行為」の場であるところの「現場」だし、構造的な防止を図るのは、三権分立の別の場所だろうし。

それでも、起きたことを、できるだけ相応しい結論に導く努力をする司法の機能は、やはり尊敬の対象だし。なんというか人の業として美しいもののように、感じます。今回は、落としどころとして、「ですよねぇ」というところに落ちたように思います。

敢えて責任の所在を言うなら

以前より、この先、少子高齢化が最も致命的な問題になるだろうと考えていました。足りない。足りない。介護の手が足りない。介護の目すらも足りない。

それを予防すべきは私たち…?(世代的な視点でいえば、私が義務教育の頃には学校でもう統計が言われていました…オトナになった頃には手遅れ感…)も含めてでしょうが(つまり投票行動あるべし)、行政と政治には、もっと頑張って欲しいように思います。

上に引用した報道で、補償の仕組(公 / 私の保険とか)を自民党が検討…と出ていましたが、大いにやって頂くべき…というか、もっと早く進むことを希望します。

もちろん、何は置いても少子化対策を早く、大胆にすることが、より大事なことだと思います。

ともあれ勉強になりました

これを書くと、もし恩師の誰かが読んだら、驚き嘆かれること間違いないですが、判例なんてロクに読んだことがない(ないことはないけど)私でしたので、受験勉強として効率が良いかは棚上げしてしまうとして、大いに頭の訓練になったように思います。(公開する以上、誰に見られても良い覚悟をするのが筋だと思いますが、こんな零細サイトが恩師の目に触れることがないことを切に願っております…。)

 

脚注

自作「ラク読みファイル」 の制作手順

 

※公式サイト掲載の全文テキストデータを、判決文に読みなれていない人にも読みやすいように、以下の手順に沿って編集しています。正確性は不保証です。飽くまで簡易的な読み物として、自己責任でご利用ください。

  1. 最高裁サイトから当該判決PDFファイルをDL
  2. PDFファイルを開いてCtrl+A(全文選択) → Ctrl+C(コピー)
  3. Wordを開いてCtrl+V(貼り付け)
  4. Wordの置換機能(ホーム>編集>置換)で以下の通り、文字列を置き換え
    • 「A」⇒「【認知症本人】」
    • 「Y1」⇒「(本人妻)」
    • 「Y2」⇒「(本人長男)」
    • 「B」⇒「長男妻」
    • 「C」⇒「本人次女」
    • 「D医師」⇒「(かかりつけ医)」
    • 「E医師」⇒「(診断医)」
    • 「F」⇒「本人長女」
    • 「G」⇒「本人三女」
    • 「【認知症本人】 宅」⇒「認知症本人宅」
    • 「【認知症本人】市」⇒「A市」
  5. 次の方針に従い編集
    • PDF⇒Wordにした際に発生したと思われる不要な文字(ページ番号(見当違いな位置に出現するため)、空白(改行箇所だったと思われる))の削除
    • 改行の追加
  6. フォントをMS明朝(デフォルト)からMS Pゴシックへ変更、フォントを10.5P(デフォルト)から12Pへ変更。
  7. 主文・理由の文字を中央寄せして太文字にし、改行を加える、その他、重要と思われるところに対して、書式の変更を加えた。
  8. 「主文」と「理由」を見出し1に設定、さらに見出し2を設けるために文言を追記した。
  9. 各頁の冒頭(ヘッダー)に事件番号等を加えた。末尾(フッター)に、当該ページに付された見出しと、ページ番号、ページ数を加えた。
  10. 下からのフッターの位置を、17.5㎜(デフォルト)から15㎜に変更した。
  11. ページレイアウト>余白>狭い に設定した。
  12. Wordファイルの完成
  13. 「名前を付けて保存」してPDFファイルを作成

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ジェイドと呼んで下さい。 ワラジ履きまくってます。 家族最優先。 得られなかったぴかぴかメダルを獲得するための戦いの最中。起業・サラリーマン経験あり。 文字を書くこと、文字を読むこと、どちらも中毒的に大好き。 (2016/3/10更新)